仙台地方裁判所 昭和28年(行)13号 判決
原告 山口久作
被告 仙台市長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が原告に対する昭和二十六年四月十日附通知を以てなした仙台市名掛丁五十八番の一宅地七十五坪九合七勺に対する換地予定地の指定処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として原告は仙台市名掛丁五十八番の一宅地七十五坪九合七勺を所有するところ、被告はその施行に係る仙台市特別都市計画の区劃整理のため、原告に対し昭和二十六年四月十日附通知書を以て右宅地の換地予定地として同丁五十八番の一、同番の二、日吉丁道路の一部第二十八ブロツク第三十七の二号約五十七坪を指定し、原告所有の従前の土地の一部は道路及び第二十八ブロツク第三十八号の換地予定地として他の権利者に指定する旨通知し来つた。
けれども右換地予定地の指定処分は以下に述べる事由により無効である。すなわち右五十八番の一宅地はもと同丁五十八番宅地から分筆したもので、原告は訴外芳賀小平ほか数名と共同して右五十八番宅地及び同丁五十九番宅地を買受けた上、右五十八番の土地を同番の一、四に、同五十九番の土地を同番の一、三ないし八に分筆して共有分割をなし、これにより右五十八番の一は原告の単独所有となつたのであるが昭和二十五年三月頃、仙台市復興局整地課長は原告及び前記訴外人等に対し右宅地の合計面積の二割五分に相当する六十五坪及び右宅地の東側に接する日吉丁道路六十三坪合計百二十八坪の見返地として前記特別都市計画における緑地々帯の予定地である同市仲の町三十六番宅地百二十一坪二合五勺、同丁三十七坪宅地百十四坪四合七勺を仙台市に提供するときは原告及び右訴外人等の前記宅地に、区劃整理により廃止になる前記日吉丁道路の一部を附加して換地予定地を指定することを約した。
そこで原告は前記訴外人等と共同して昭和二十五年三月十五日右仲の町の宅地二筆を買求めて(原告の共有持分を二百分の六十とした)仙台市に提供し、同市復興局においては同月中に実地測量をした上で現地において原告所有の名掛丁五十八番の一宅地に対する換地予定地として別紙図面に赤斜線を以て表示した土地を指定した。しかるに被告は再び右に反する冒頭記載のような換地予定地を指定したのであるから、後に為された本件換地予定地指定処分は無効である。
そればかりでなく、そもそも原告等が右のように仲の町の土地を買求めた所以のものは仙台市復興局の前記指示によるものであり、されば売主に対する代金の支払も同局の承認の下にこれをなし、右宅地には借地人が居住していたのでこれを立退かせるなど多大の犠牲を払つて同局の指示通り右土地を提供したにも拘らず、これ等の事実を全く無視し、何等土地区劃整理委員会に諮ることなくなした本件換地予定地指定処分は自由裁量の限度を越え、條理に反する無効の行政処分といわなければならない。
よつて右行政処分の無効確認を求めるため本訴請求に及ぶと述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張の事実中原告が仙台市名掛丁五十八番の一宅地をその主張のような経過により取得したこと、被告が右宅地に対し原告主張のような換地予定地指定処分をなし原告主張のような書面によりこれを原告に通知したことは認めるがその余の事実はすべて争うと述べた。(立証省略)
三、理 由
原告が訴外芳賀小平ほか数名と共同して仙台市名掛丁五十八番宅地及び同丁五十九番宅地を買求め、これを原告主張のように分筆並に共有分割をした結果原告は同丁五十八番の一宅地七十五坪九合七勺を単独で所有するに至つたこと、被告はその施行に係る仙台市特別都市計画による土地区劃整理のため右原告所有地に対し、原告主張の換地予定地指定処分をなし(その位置は成立に争のない乙第一号証により別紙図面に点線を以て表示したところであることが認められる)昭和二十六年四月十日附書面を以て原告にこれを通知したことは当事者間に争がない。
原告はその主張の事由により被告の右換地予定地指定処分は無効であるというので判断するに成立に争のない甲第二、三号証及び証人庄司力の証言により成立を認め得る同第四号証に同証人並に早坂松三郎の各証言を綜合すれば仙台市名掛丁に前記の宅地を取得した原告及び前記芳賀小平ほか数名は、土地区劃整理により各自の所有地が減歩されいよいよ狭小となることを憂え昭和二十五年三月頃仙台市復興局整地課長早坂松三郎に陳情したところ同課長は独断で原告等に対し右所有地の合計地積に対する所定の減歩率二割五分に当る六十五坪及び右土地に接していて区劃整理の施行によつて廃止になる日吉丁道路の一部に匹敵する土地を他に求めてこれを仙台市に無償で提供するときは各自の従前の所有地を殆んど減歩しないでその侭の位置で且つ右廃道の一部六十三歩を増歩して換地を指定するように取計らう旨約したことそこで原告及び右訴外人等は被告から早坂のいう通りの換地の指定をして貰えることゝ確信して仙台市に提供すべき土地を二三物色した挙句、早坂の意向をもたしかめた上で前記特別都市計画で緑地々帯となるべき仙台市仲の町三六番宅地百二十一坪二合五勺及び同町三十七番宅地百二十四坪四合七勺を昭和二十五年三月頃訴外松沢弁治から共同して買受け、早坂に対しこれを前記のような換地の用に供すべく提供し、早坂は原告及び右訴外人等の前記名掛丁の宅地各筆の面積及び右仲の町宅地に対する各自の共有持分等を勘案して右名掛丁の宅地に対する換地の設計を実地につき内示し、これによれば原告所有の同丁五十八番の一宅地に対する換地はほゞ別紙図面に赤斜線を以て表示した部分に該当したこと、又証人佐藤芳太郎の証言により被告のなした本件換地予定地の指定は右早坂が原告に対し口約したところに捉われることなく名掛丁五十八番の一の面積に所定の減歩をなして土地区劃整理委員会の修正案を容れ、これを指定したことをそれぞれ認めることができ、右認定を妨げる証拠は何もない。
然しながら右事実によつてはいまだ本件換地予定地の指定前前記名掛丁五十八番の一宅地につき現地において原告主張の換地予定地の指定があつたということはできないし、他には之を認めるに足る証拠がないから、本件換地予定地の指定が重複して為されたものであることを前提とする原告の主張は理由がなく、又、右佐藤証人の証言によれば一般に被告が換地予定地の指定をなすに当つてはその原案を土地区劃整理委員会の諮問に付した上、被告がこれを決定するのであつて、仙台市復興局整地課長は被告の指揮命令を承けて右原案の設計をする職務権限を有するにすぎないことが認められるから、斯様な職務権限しか有しない早坂松三郎が独断で原告に対し前記のような口約を与えることは越権というのほかはなく、そればかりではなく成立に争のない乙第一、二号証に証人佐藤芳太郎、熊谷泰蔵の各証言を綜合すれば原告が前記宅地を所有する名掛丁は仙台市内有数の繁華街で土地区劃整理の進行により新幹線道路の開設等により総体に宅地の面積が減じ従来から同丁表通りに面していた土地でさえ同じような状態で表通りに面して換地を割当てるということにも相当の困難があること、これに反し同市仲の町三十六番三十七番の宅地はその等級からしても名掛丁のそれには著しく劣ることが認められるから訴外早坂松三郎が原告等に約した前記の口約通りに換地を割当てるようなことになれば原告等に対し安価な代償の下に高価な土地を割くことゝなつて著しく原告等一部の者の利益に偏し、且つ斯様な換地をすることはさなきだに前記のような事情から宅地の狭隘を告げる右名掛丁においていよいよこれに拍車を加え他の土地所有者その他の権利者の利益を損う因となることは明かであつて著しく衡平の理念にもとるもといわのなければならない。そうしてみると、被告の部下として整地課長という比較的重要と考えられる地位にある早坂松三郎の言に何等の疑念をも挿挾むことなく、そのことがなければ全く必要とも思われない土地をわざわざ買求めた原告等の立場に同情すべきものはあつても、被告に訴外早坂が与えた前記の口約をその通り履行すべき法律上の義務があるとはいえない。況んや右口約に従わない本件換地予定地指定処分が無効であるということのできないことは多く言うまでもない。
よつて原告の本訴請求はその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を用し、主文の通り判決する。
(裁判官 松尾厳 飯沢源助 裁判官伊藤和男は転任につき署名捺印することができない。裁判官 松尾厳)